抗体依存性感染増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)とは、ウイルスなどから体を守るはずの抗体が、免疫細胞などへのウイルスの感染を促進。その後、ウイルスに感染した免疫細胞が暴走し、症状を悪化させてしまう現象を指す。ワクチン接種やウイルス感染で中和活性の無い抗体が誘導されると、抗体のFc領域がヒト細胞上のFc受容体に結合し、ウイルスを積極的に取り込んでしまうと考えられている。その他に、Fc受容体非依存性のADE機構も解明されつつある。
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感染症のワクチン開発では、ADEに対する慎重な評価を要する。例えば、デングウイルスには4つの血清型がある。再感染時に以前と異なる型に感染すると、ADEが生じ、重症化してしまう。フィリピンではフランスSanofi Pasteur社のデング熱ワクチン接種後に死亡する事故が発生し、公的接種が中止された。その原因はADEとみられている。
厚生労働省によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの接種者でADEが起こり重症化したという報告は、臨床試験でも実用化後でも、現時点では確認されていないという。ただし、新たな変異株が出現した場合には、ワクチンの接種者でADEを含めた疾患増強が生じるかを観察する必要があるとしている。